心の声をキャッチして
-JDSダウン症成人期対応セミナーに参加して-
北沢地域 S.

 8月26日、汐留浜離宮ビルで行われたセミナーの報告です。参加者約200名の多くは施設や作業所の職員、指導員の方たちでした。成人期のダウン症者の実態解明にはまだ多くの課題がありますが、問題解決のための情報提供としてセミナーが開催されました。3名の専門家の講演と、その後、3分科会に分かれて質疑応答、討論が行われました。


[ダウン症成人期の問題解決に向けて]

 長谷川知子先生(臨床遺伝専門医):「ダウン症の成人における]合併症への対応」‥ 合併症の種類−診断・評価−治療−予防の観点から、ダウン症の人たちの特性をよく知った上で、治療される本人と治療者が信頼関係を築くことを第一に、治療が進められなければならない。

 館野敦先生(東京学芸大学):「豊かな成人期を送るために」‥思春期・青年期から成人期への移行期において「内にこもる」「活動の低下」等の行動上の問題や、「爪かみ・指しゃぶり」「自分の世界に閉じこもり空想にふける」「うつ状態」等の神経・精神症状を呈する者が多いようである。またこの時期、進路変更者が特に多くいることもわかった。調査結果では加齢に伴う変化が顕著に見られ始めるのは40歳代からであったが、一人ひとりに聞いてみるとかなりの年齢まで維持、向上は続く。加齢による自然の能力の低下、衰退に対しては一般的な老人対策が基本的な対応、予防となる。

 橋本創一先生(東京学芸大学):「青年期の不適応、ダウン症者への支援方法を考える」‥ダウン症者の特性について、小学生のダウン症児の行動傾向として「気の向かないことは続かない」「ひとり遊びが好き」「取りかかりが遅い」「気持ち・場面の切り替えがうまくできない」等をあげられ、総じてダウン症者は「マイペース」「甘えん坊」「表現が下手」「プライドが高い」「うまく気持ちが切り替えられない」と指摘されました。またダウン症者を持つ保護者の「将来への不安」に対して、受講者に成人支援のプロとして答えてくださいと次の項目をあげられました。「思春期はいつから始まるのか?何が起こるのか?」「大人になると誰と暮らすことが良いのか?」「結婚できるの?生活できるの?」「老化が早いと聞くが本当か?」「認知症になるのか?」「性格や行動特性が変化するのですか?」「不適応症状を示す人が多いと聞きますが?」「大人になった彼らを支援する際、何に注意しなければならないか?」等なかなか大変な質問でした。

 三名の先生に共通することとして、支援するにあたり、ダウン症者の特性を理解した上で一人ひとりを理解するのが前提であることと、成人期の定期健康診断がとても重要なことがあげられます。


[信頼関係の中での治療]

 午後は長谷川先生の分科会に参加しました。ダウン症者の支援の現場での問題が指導員の方たちから提起されました。〈35歳男性、自傷行為、物に対しあたる〉〈37歳男性、パソコンが好きだが興奮するとデッキを投げる〉〈41歳男性、暴力的になる、今までできていたことができなくなる(トイレなの)〉〈24歳男性、小学校5年生から不登校、ひきこもり、昼夜逆転、固まってしまう〉

 長谷川先生からの助言:ダウン症者の不適応症状を『退行」とすると症状の原因を曖昧にさせてしまう。それぞれ原因がある。特にダウン症者は気持ちの良い空想の世界に入りがちであり、挫折したとき弱く、逃避してしまう傾向がある。空想の世界から現実の生活に引き戻すには、現実の世界で主人公にする工夫と支援が必要。本人が大人になって自我をどうしたら出せるか。問題が起きた時よく話し合って納得し、ダウン症だからという枠にはめ込まないで。また彼らが相手の心を読めることを忘れてはならない。原因追究をしてつきとめ、信頼関係の中で治療を行うのが大切。


[まとめに替えて] -長谷川先生の講演レジュメから引用します-

 ダウン症の人たちは思春期から成人期にかけて精神的に支障をきたす場合がありますが、経験上、幼少のころから「ひとりの子ども」「ひとりの人間」として「普通の人がダウン症を持っているだけ」という事実を忘れないように育て、一人ひとりの苦手な面を補うための適切な対応を親も含め周囲の人々が心がけていくことで、かなり予防できると考えています。既に支障をきたした人たちが回復するためにもこの視点は重要ではないかと思います。