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ダウン症の人と水泳について

 ダウン症をはじめ、多くのハンディのある人たちをマンツーマンで水泳指導していらっしゃる水谷先に、「ダウン症の人と水泳について」というテーマでお話しをうかがいました。

Q1.谷先生がダウン症をはじめとしたハンディのある人に水泳を指導されることになったきっかけは、どのようなことでしょうか?

 ハンディのある人に水泳指導を始めたきっかけは、よく聞かれます。お話をすると長くなりますが、もともと私は産業用ロボットの設計をしていました。初めて手話講習に行った時に、ハンディのある人のプールを手伝ってくれないかと頼まれ、水泳は好きで以前からやっていましたし、水着はありましたので、軽い気持ちでボランティアに行きました。
 機械設計をしていましたから、水中歩行具を開発したのがプールで歩くことを始めたきっかけです。初めてのボランティアは福祉作業所の大人のグループでした。そして、いきなり、その中の脳性麻痺の一人を任されました。私も相手もガチガチに力が入ってしまい、終わった後には3日間も筋肉痛が続きました。

Q2.今のようなマンツーマンで水泳指導をされるシステムにされたのは、なぜでしょう?

 団体でなく、マンツーマンでの水泳指導のかたちですか?それはいくつかの理由があります。まずは、水の中での呼吸は陸上より呼吸コントロールが必要になります。人は呼息と吸息のリズム・長さ・回数・酸素供給量が異なっています。また、手の大きさ・長さ、身体の硬さやしなやかさ、生活習慣による筋肉の伸張さ、フロートポイントの違いなどを考えると、マンツーマンが理想の形となりました。次に、同じようなハンディを持っていても、個としての個性があります。その個性を大事にしたいと考えました。
 余談ですが、言葉の多くは『出す』ことを先に考えられています。例えば、出入り口、出船入船、出入国など…を考えると、呼吸ですから吐いて吸う…になり、息を吐かないと吸えません。肺は筋肉でできているのではなく、スポンジのようなもので、肋骨と横隔膜との間の空間で作用しています。

Q3.ダウン症の人にとって、水泳はどのような効果、良い点がありますか?

 ダウン症の人にとっての水泳は利点や効果が数多くあります。ハンディのあるなしに拘らず、まずは、水の特性である水温・浮力・抵抗・粘性・乱流等を利用しながら、持久力と抵抗性運動(筋力トレーニング)がどちらも併せ持てる利点があります。呼吸数の変化に伴う皮膚温の血流速度が変わったり、陸上と水中で比較した運動終了直後の心拍応答、つまり、心臓副交感神経系が高まると認められています。また、骨格筋の活動活性化をもたらす可能性があります。身体だけでなく、脳へのリラクゼーションも挙げられます。
 運動と免疫と健康は深い関係があり、心と身体はつながっています。つなげているものは自律神経系です。人が興奮している時は交感神経が働き、ゆったりしている時は副交感神経が働いています。この交感神経と副交感神経のバランスがとれていると、健康でいられるのです。
 ちょっと難しくなってしまいましたが、ここからダウン症の人を考えてみますと(同じダウン症でも個人差がありますので、話の内容を誤解なく広く捉えていただけるといただけると助かります)、緊張型や弛緩型に大別すると、水はどちらのタイプにも有効です。弛緩型は水に支えられながら安全に歩行や手足を動かすことが可能です。また、緊張型は浮力をうまく使いながら、力まないことを記憶します。水の体感感覚により副交感系が優位に働きます。また、ダウン症の人は心臓に問題を持って生まれてくる場合も少なくなく、生体の循環を担う心臓の中心動脈伸展性の機能に有効と考えられます。
 さらに、鼻腔のトラブルも多くみられることからも、最大酸素接収量の確保が望ましいですね。年齢が高くなるにつれ運動量が減り、肥満を招き、生活習慣病が心配になってきます。水泳は一人でも楽しめ、生涯スポーツとしての位置づけとも成り得てくれたら…と考えています。

Q4.これから子どもに水泳を始めさせたい場合は、どのようなことから始めればよいですか?また、どのような点に注意すればよいでしょうか?

 水泳を始めさせたいと思われたら、水は気持ちが良いもので楽しいものだという、水が好きになるようなイメージづくりのために、お風呂で遊んでほしいです。おもちゃなどを使わず、手や足、身体で水の感触を楽しんで、気持ちが良いことを記憶したいですね。よく、声もかけずにいきなり頭や顔にシャワーをかけがちですが、水を嫌いになる原因になると考えています。水の楽しさができていれば、いつから始めても良いですが…。水泳を始めるのは早い時期がいいよと言われる理由は、習得に時間がかかることです。ただ、私の経験から、小学校2年生頃から泳ぎだすお子さんが多いように思います。それまでに水の楽しさが記憶されるといいですね。
 お子さんと向き合ってみて、次のどこにあたるか考えてみてください。スイミングスクールの利点もあります。ダウン症の人は模倣が好きで、目からの刺激が有効の場合がありますので、団体も良いと思います。水の楽しさや気持ちよさを感じていないお子さんや、人とのかかわりの中で相手の反応を楽しんだり、優しさやシャイを強く持ち合わせている場合は、マンツーマンが良いと思われます。お子さんによっての個性に違いがありますので、いろいろな選択肢を時期に合わせて考えられると良いですね。

Q5.これまでダウン症の人を指導されてきて、エピソードなどはありますか?また、今後、水谷先生のビジョンなど、差し支えなければシェアしていただけますか?

 ダウン症の人たちとのエピソードや武勇伝はいっぱいあります。基本はまじめですから、そっと隠れて練習したり、褒めた時の得意そうな顔を見るのは楽しみですね。今では水泳大会に出場しているお子さんも今だからお話しできることもあるのですが、長くなってしまうので次回に(笑)
 今一番欲しいのは『マイプール』ですね。自由に使えて、理学療法士や運動指導士などの環境整備、指導者の育成など。リハビリ、運動、スポーツとしての水泳を通して、健康総合施策施設で人生を十分に謳歌できる発信現場をつくりたいですね。ちょっと大きすぎる望みです。
 なかなかうまくお伝えできていませんが、皆さまに少しでも現場をご理解いただける機会を与えていただけましたことに感謝いたします。

−水谷先生ありがとうございました。


〜水谷睦子(みずたに むつこ)先生プロヒィール〜
フリー、日本体力医学会健康科学アドバイザー、WABA/WATSUインストラクター
AT&RI/ヘルスケア・アクアテックインストラクター、地域スポーツ・日本身体障害者スポーツ・世田谷障害者水泳スポーツ指導者、青少年育成アドバイザー
機械設計を経て1985年より水泳教室「悠遊」「水夢」「水好葦」「多彩」を設立
各種講演/講習
ガールスカウトリーダーを20年活動中、華道に陶芸、釣りなど趣味を楽しむ



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