書籍の紹介「わが子よ」 出生前診断、生殖医療、生みの親、育ての親

 出生前診断や生殖医療、養子縁組について共同通信社が2013年4月から2014年6月にかけて、全国の新聞に配信した連載企画が一冊の本「わが子よ」として出版されました。この本の中で、英国のダウン症や出生前診断の現状を取材、執筆された市川亨さんにお聞きしました。


Q.市川さんは共同通信社の記者として3年間ロンドンに駐在していらしたそうですが、イギリスでの出生前診断や、ダウン症のある人への対応はどのような状態でしたか?

A.出生前診断については、染色体異常の確率を調べる母体血清マーカー検査が妊婦に一律、無料で提供されています。日本では母体血清マーカーは全額自己負担で1〜2万円かかり、受ける人は2%程度とみられていますが、イギリスでは8割くらいの人が受けています。羊水検査まで進み確定診断を受けた人の9割は中絶を選んでいます。
でも、一般の人はそれだけ多くの人が中絶を選んでいるということをほとんど知らないです。イギリスでは「出生前診断についての議論は20〜30年前にもう終わっていること」という風に感じられました。

 日本で議論になっている新型の出生前診断は、イギリスでも一部で行われていますが、そぼ是非については全くと言っていいほど議論になっていませんでした。生殖に関する女性の自己決定権が尊重されているので、「情報を与えて、その後、産むか産まないかは本人の自由。でも生まれてきたダウン症の人の権利は尊重する」という考え方ですね。
 中絶する人が多いせいかどうかは分かりませんが、私と妻の印象では、ダウン症のある人を見かける頻度は日本に比べると少ないように感じられました。統計的には、ダウン症のある子どもの出生数は一時期減りましたが、最近は出産の高齢化で再び以前と近い水準になっています。

 私の娘(現在12歳、小学6年)は日本人学校に通っていたので、現地の教育や療育がどんな風か、実体験はありませんが、ダウン症のある子の7〜8割は小学校では通常学級に通っているということでした。ほとんどの場合は介助職員が一人一人に付くそうです。介助職員は資格は不要で、誰でもなれるということでレベルにばらつきがあるそうですが。
 特別支援学校・学級でのいわゆる「分離教育」は行われていない、という印象があるかもしれませんが、それは誤解です。?イギリスでも「Special School」と呼ばれる特別支援学校に相当する学校はあって、障害児のうち特別支援学校に通っている割合は日本とさほど変わらないか、むしろ高いくらいでした。


Q.取材で苦労したこと、感じたことはありましたか。

A.苦労したのは宗教的な側面ですね。本には書かなかったのですが、欧米はキリスト教で、カトリックとプロテスタントがありますよね。イギリスはプロテスタントである英国国教会の宗教です。出生前診断や中絶に対しては、カトリックは反対ですが、プロテスタントは賛成・容認です。ですから「出生前診断や中絶に反対しているのは、カトリックの人たちでしょ」という雰囲気があって、その時点で議論が止まってしまうんですね。日本人である私には、そこの理解が難しかったですね。
 あとは、出生前診断や、異常のある胎児の中絶が病気を予防することと同列にとらえられているんですよね。それは驚きました。一般の人と話すと「病気が見つかったら取り除くでしょ。それと何が違うの?」とか、助産婦でも「重い障害者は働いて税金を納めることはできないから、社会に経済的な利益をもたらさないじゃない」と普通に言うんです。「命を絶つことになるから、病気の予防とは違う」「日本では、障害者の差別につながる可能性があるという観点から慎重なんです」と話すと、みんな表情が一瞬止まって「ああ、そうか」と初めてそれに気付くんです。「知的障害者が医療現場で軽視され、適切な治療を受けていないために、想定よりも平均16年早く死亡している」という調査結果もありました。出生前診断が当たり前の世界に生きていて、議論もされないので、思考停止になっているようにも感じられました。


Q.本の中で、ダウン症のある17歳のオリバーさんに取材をしていますよね?プロの写真家を目指し、スケートボードを楽しむという彼について、もう少し詳しく印象を教えていただけますか?

A.ふたばの会の集まりでも、生き生きとしている若い人たちが印象的でしたが、彼も同じように生き生きとしていました。彼が小さかったとき、お母さんは医療スタッフから「筋力が弱いのでスポーツは無理」「まともに話すこともできないでしょう」と言われたとのことですが、その予測を見事に裏切って生きているわけです。地域の文化会館のようなところで写真展を開いたり、彼の写真を気に入ったホテルの経営者が、そのホテルで写真を飾ったりしているそうです。独特の魅力がある写真だと感じました。
興味のある方は、英語のサイトですが、以下の彼のホームページをご覧になってみてください。 http://www.oliverhellowell.com/ 


Q.ふたばの会の会員に何かひとことあればお願いします。

A.私は医療や介護、年金や障害者福祉、子育て制度を担当している記者です。いろんな記事を書いていますが、最近障害者関係では、障害年金について「支給停止・減額されるケースが増えている」といった記事を書きました。もし皆さんの周りで「これは納得できない。おかしい」とか、「こんな素晴らしい話がある」といったことがあれば、記事にできるかどうかはわかりませんが、教えていただけると嬉しいです。


<市川亨>
42歳。共同通信社・生活報道部記者。
2013年12月まで3年間のロンドン駐在を挟み、2007年から社会保障を担当している。妻とダウン症の長女ら3人の子どもを育てている。ふたばの会砧地域所属。




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