わが子がダウン症と診断された親ごさんへ  



4)療育訓練の意味

 療育とは、子どもが健全に育つための援助の一つで、その目標は、社会の中でできるだけ自分で考え状況判断する力、生活していける力を身につけることです。療育の基礎には親ごさんの安定した情緒が必要ですので、心が忘れられるような訓練はとてもお奨めできません。社会で生活するには知能より知恵が大切ですから、援助もそれを目的に、暦年齢を考えて過剰な関わりにならないよう注意が必要です。保護と過保護は全く違うものです。

 リハビリは薬と同じように治療として行われるものです。それはたとえば低緊張に対して早期に正しい姿勢を教えたり靴を工夫するというように、目標をはっきりさせて専門家が適切な治療法を決めていくものです。毎日の生活のなかでは、子どもたちにとって栄養のある食事と同じように、−番大切なものは『豊かな遊び』でしょう。とくに赤ちゃんのときにしてほしいことは、目を見つめ合って話しかけることと、離乳食を正しくあたえることです。  
 
 ダウン症の赤ちゃんは、口の中の低緊張と運動発達の遅れのため口が閉じにくく舌が前後に大きく動いてしまい、離乳食も舌で押し出しやすいので、ついスプーンを口の奥に押しこみ流しこんであたえがちです。これでは丸飲みになりやすく、唇や口の中の機能もよく発達できません。離乳をはじめる時期は普通と同じでいいのですが、スプーンをまっすぐにして唇のところにおき、自分の唇で食べものをとり、口の中でゆっくりモクモグしてから飲みこむという、正しい動きができるような食べさせ方をいつもしていくと、知らないうちに上手に食べられるようになります。


5)健康管理・合併症の治療・予防接種など

 医学書などをみると多くの合併症が書いてありますが、それがすベてあったら生まれてくることはできません。でも、これから合併症がでるかどうかは誰もわからないことですので、ふだんと様子が違うときはすぐに、かかりつけの医師に連絡してください。もし合併症があっても早期にみつけてもらえるよう、元気でも定期的に診察を受けることをお奨めします。

「もともとの病気(ダウン症)は治らないし、治療は合併症だけの対症療法だから」と悲観的になることはありません。そもそもどんな病気も対症的に治療されているのです。それに合併症があると持ちまえの能力も阻害されやすいので、障害の悪化を防ぐためにも積極的な治療は必要なのです。

 予防接種も忘れないように。体の大きさと予防接種の副作用は関係がないので心配はいりません。

 診療をする医師は、遠くの『有名な偉い先生』よりも、できるだけ『近くの親切な良医』を見つけたほうがよいでしょう。それも困ったときだけ飛びこむのでなく、ふだんのようすを知ってもらっておくほうが適切な助言が受けられるでしょうし、いざというときも早く正しい対処をしてもらえます。

 ダウン症の子の合併症の治療は特別でも難しいわけでもなく、子どもを専門に診療している医師であればできるはずです。もしもその病院では治療が難しい場合には、それぞれの専門医に紹介してくれるでしょう。医師にもそれぞれ役割があるのです。 専門家は、それほど問題とは思わずに状態を軽く口にすることがありますが、それに遇剰に反応すると、本当は大したことでなくとも心配のほうが大きくなります。何でも尋ねて気持を伝え、そのつど誤解をといておきましょう。

 寿命は昔よりはるかに延びています。平均余命 50歳と言われますが、これは一部生命力が特別弱くて短命の子がいるために引き下げられているのです。ふつうでもその人の寿命を言い当てることはできないでしょう。寿命を不安に思って過ごすよりもその日その日を確かに生きていくことが一番ではないでしょうか。


6)関連書やインターネットなどでの過剰情報に注意

 今は情報があふれていますが、本当に使えるものは少しです。情報は、子どもを暖かく見守り十分にふれあって初めて、上手に選んで有効に使えるのです。また、家族の見方が、役割が違う医師などの専門家の見方と全く同じになっては、子どもの全体の姿が見えなくなってしまうでしょう。子どもとの共感がないまま得た情報はうまく使えないので、もっとよい情報がないかと探していき、結局は不安が不安を呼んだり情報収集の面白さにのめり込んで子どもがどこかに行ってしまうということにもなりかねません。ただし、親ごさんだけではわかりにくいところもありますので、子どもを続けてみてくれている主治医や相談員、保健婦といった専門職の人と、子どものようすを話し合うことも大事です。それによって見方も広がりますし、適切に判断する力も養われるでしょう。



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