長谷川知子先生講演会    2007.05.13


子どもの自立は親の自立

 「自立とは」いろいろな定義があるが、一番納得がいくと思われるのは、「自分でできることは可能な限り自分だけで行い、できないことは誰に相談したらいいかを判断できること」です。自立には成長・成熟が大きく関わってきます。このことはダウン症のお子さん達を育てている親ごさんも同様です。

 まずは親が自立すること。そのことが子どもの自立につながります。  それに関連することとして、障害を持つ子どもへの親の「受容」(愛し、ありのままを受け容れること)があげられます。大半の親は、支援があれば我が子という存在を受け入れる段階の受容はできますが、真の受容=障害に対する価値観の変革は容易でないようです。

 真の受容に向かうには親の会の活動が重要となります。親の会活動の柱としては 「我が子がより良い社会生活を営むために」そのためには「障害・病気を持った人々の社会環境の改善に向けて」、そして「障害観の変革に向けて」の三つをあげたいと思います。


「障害」で一括される弊害

 一般的見方としては、ダウン症をもつ子はいわゆる健常児に対して、障害児としての括りに入れられます。しかし感覚や認知から見れば、ダウン症の子は障害児の括りではなく、健常児の域に入ります。

なぜなら
 「視線がしっかり合う」
 「宣言的(共感的)指さしができる」
 「人の感情・考えが読める」
 「ごっこ遊びを楽しむ」
 「想像的な劇遊びを楽しむ」
などが共通だからです。障害児の括りは本質を見失うことになります。

 何でもダウン症と結びつけて考えがちですが、遺伝的に考えて親とそっくりなのをお忘れなく。ダウン症だからではなく親と似ているのに、ダウン症のせいと思われていることはないでしょうか。

 また、ダウン症と診断された時、どんな説明をされたでしょうか。医師の視点は病気や障害の部分に集中します。それは医師の仕事なのです。確かにダウン症の影響はかなりありますが、それ以上の割合で健常部を持っていることを忘れないでください。ダウン症はその人の一部なのです。

 完全な人は誰もいません。健常と障害は共存します。まず、一人の人間、生活者として健常部を見ましょう。健常部を大きく育てることで障害部分が小さくなります。その前提に立って、ダウン症の部分の特徴を知ることで、この人達と適切に関ることができます。

ダウン症として留意することは3つ

 「筋緊張低下(低緊張)」
 「特徴的な発達」
 「合併症の可能性(合併症はほとんど治療可能)」

1.筋緊張低下(低緊張)の影響には注意を
 ・ダウン症の筋緊張低下は軽視できない。幼児期の姿勢・運動・意欲に影響する
 ・特有と思われている姿勢は低緊張が主因
 ・外反足・不自由な歩き方が多く、足を変形させる
   足の変形で筋肉の発達が歪み、それが悪循環になるおそれがある
 ・また、四肢の筋以上に体幹筋による体の支持が問題になる
 ・療育には弱点を補うことが必要
   歩くに決っているダウン症の子には歩行練習よりも基礎的な支持・運動を
   赤ちゃん体操や幼児期早期の端座位はとても有効
 ・靴の補正も正しい姿勢につながる(成人になるまで補正は必要)

2.特徴的発達を知る
 ・彼らの発達はゆっくり、行動もゆっくり
   急ぐとついていけず、現実の世界に絶望して、
   得意なファンタジーの世界に行ってしまったりする
 ・目から入ることは優れ、観察力は抜群
   ひとの気持ちも非常に敏感にキャッチする
 ・耳から入った言葉は理解するのに時間がかかる
   話しかけは目を合わせて、急がないで!
   ダウン症のひとはゆっくり確実に育って行くから

3.合併症に対しては
 ・合併症は多彩で、個人差が非常に大きく、ほとんどが治療可能
   定期検診、早期発見・適切な治療が彼らの人生を守る。
 ・一般の人では軽くても、重篤になる場合がある
 ・薬が効きすぎることがある
 ・合併症の影響が大きい人には、医療だけでなく、多種多様な支援が必要
 ・不思議に一般の人より発症頻度が少ない病気もある
  (真性喘息、川崎病、痙性麻痺、多くの癌)



次へ