長谷川知子先生講演会    2007.05.13


問題はダウン症ではなく、遅れを招く環境

 遅れを招く環境を防ぐには、「ダウン症をもった人も、私達もほとんど同じである」このことをしっかり心に留めることです。善意の行動も偏見、レッテル貼りになります。他の人と同じでいいんです。

 ダウン症は他の障害と比べて、特殊視されていないでしょうか?幼い頃は愛らしい。でも、頑固になるとか思春期では急激な変化が起こりやすいとか言われることが多い。これって、一般の子どもにもあるのでは?原因を調べないでレッテル貼りがされていないか?ダウン症特有の退行であると見落とし、無治療で放置されている例も少なくありません。

 空想の世界やテレビ、映画、お酒に行くのは誰にでもあること。そこから活力を得て現実に戻り乗り越えていく。ダウン症の人は発達障害があるため、自分から戻ってくるのが難しい。入り口は同じでも、あとがうまくいかない。そこをサポートしてやる。正しい医学的診断を行い、治療することが大切です。 
    
たとえば・・・
 ・思春期うつ病の発症(一般に、生涯でうつ病になる人は5人に1人)
 ・甲状腺機能低下など身体的問題
 ・微小脳出血や脳梗塞などの後遺症(まれであるが)
 ・何らかの神経疾患の合併(まれであるが)
 ・年齢的発達のアンバランスと環境の相互作用から

 ダウン症の人たちは、一般の人と同じ環境条件とは言えません。一般の人も環境が悪ければ早く認知症になったりします。いろいろなことがあった時、ダウン症は老化が早いと決めつけて、何もしていないというのが一番こわい。

健全な思春期〜青年期〜中高年期に向けてのチェックポイント
 ・定期検診をしているか?(甲状腺、尿酸,眼なども)
 ・肥満の予防やバランスのとれた食生活をしているか?
 ・毎日適度の運動を楽しく続けているか?
 ・水分摂取に気をつけているか?
 ・大人としての自覚を尊重しているか?
 ・自分さがし、役割さがしが理解されているか?
 ・悩みの相談にのってくれる人が身近にいるか?
 ・毎日、充実した前向きな生活をしているか?
 ・家庭の一員としての役割を持っているか?
 ・余暇を豊かに過ごしているか?
 ・年齢相応に過ごしているか?
 ・同世代との交流はあるか?
 ・性や結婚について真面目に対応しているか?
 ・ダウン症は老化が早いと決めつけていないか?
 ・大人に誘惑への対処を教えているか?(サラ金など)
 ・精神的問題がある時、医療で診断・治療されているか?


薬を適切に使いましょう

西洋医学も漢方も注意は同じ
 ・薬は必要な時だけ、正しく使う
 ・薬は本人のつらさを軽減するために使うもの
 ・薬は、恐れても、頼ってもよくない
 ・効果・副作用・相互作用をきちんと知って対応を
 ・薬の効果・副作用は人によって異なる
 ・薬で解決できること、できないことを知る
 ・ダウン症の人は薬が効きすぎることがあり要注意

民間療法のサプリ・ハーブの使用も要注意
 ・目的と効果が明確なものに限ること
 ・副作用が不明なものが多いことを知って
 ・相互作用があることを知って
 ・長期使用の副作用は殆ど知られていない
 ・高価な薬や健康食品はそれだけで問題
 ・依存の可能性もあり、個人差もある
 ・日常生活の重要性が忘れられると最悪
  これは療育にもそのまま当てはまる。


藁をもつかみたい気持ちが危ない

科学的と銘打った似非科学や弊害をもたらす民間療法の例として
 ・脳トレーニングや右脳活性化
 ・脳に良い食品やサプリだけを摂取
 ・カルシウム摂取で骨粗鬆症予防
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 健康でありたい。やらないと後悔するかも。これは人間の共通心理ですが、藁をつかんだら溺れてしまいます。人間には適切なものを淘汰・選択してきた歴史があります。また、人間は超複雑系で、全体を見ないで単純に判断すると、しっぺ返しにあうでしょう。

 「発達に最も影響するのは日常生活の体験である」思いつきはいつか消えていきます。日常生活は複雑です。そのなかでこそ超複雑系の脳や身体は発達します。賢い判断と選択が必要です。




ダウン症だから特別なのではない

我が子だから特別なのである

そして どの子も特別なのだ





<長谷川知子>
臨床遺伝専門医・指導医。日本ダウン症協会有識理事。日本PWS協会-IPWSO専門職委員。第10回日本ダウン症フォーラムin静岡2005実行委員長。静岡県立こども病院でダウン症やプラダー・ウィリー症候群の子どもたちの診療にあたってきた。現在は板橋区の心身障害児総合医療療育センターで遺伝性疾患の子どもと家族のサポートと相談にあたっている。


2007年5月13日 世田谷区総合福祉センターにて
JDS東京世田谷支部ふたばの会



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