わが子がダウン症と診断された親ごさんへ  



 赤ちゃん誕生おめでとうございます

 赤ちゃんがどんな病気をもって生まれたのであっても、その生命は尊いものです。ダウン症だからといっても育てるのが特別たいへんというわけではありません。どの子だって育てるには手をかけないとならないでしょう。一緒に遊ぶこと、いつも見守っていること、生活のしかたを教えること、悪いことをしたら叱ること、これはダウン症の子でも同じです。

 ただ、ダウン症の子では普通より時間がかかることが多いのです。親ごさんががんばらないとならないときもありましょう。それは、合併症の治療が必要なときや、学枚に入るときかもしれません。でも、育てるコツがわかれば決して難しいものではないと、多くの親ごさんたちも言っています。「構えないでただちょっと丁寧に育てればよいのです」と、ある青年のお母さんが教えてくれました。それに『育てていて楽しい子』と皆さん言われます。わからないことや心配事は一人で迷うわないで、上手に育てておられるお母さんたちに訊いて安心していただきわが子に合った育てかたを見つけてください。

 診断名を知らされたときは心に傷を受けて当然です。そして驚き、疑ったり、滅入ったりなど、心は揺れ動くでしょう。傷を回復させて二次傷害を作らないためには、心を支えてくれる人が必要です。しかし、心の傷の大きさは、今までの人生経験や考えかたにも関係があります。これからの世界が変わってしまうのかと不安に思われるかもしれません。でも実際には、人生がこれで悪い方に変わってしまうことはまずありえないことなのです。ただし、今まで「こうでなければならない」という考えをしがちだった人には、世の中がもっと広くてよいことがあるということも知っていってください。考えを広げて、心を柔らかくもみほぐしていくほうが、傷は早く回復するのです。

 「障害をもつことが不幸なのではない、不幸と思わざるをえないことが不幸なのだ」と言われます。お母さんだけでなくお父さんも、辛い気持を誰にも言えす悩んでいたり、仕事などに逃げてはよくありません。家中皆が幸せになるように、家族で語り合い支え合ってほしいのです。

 これはほとんどの人にとって未経験のことですから、担当医の最初の説明ですペてが理解できなくて当然です。ご家族の方は遠慮しないで、いつでも納得がいくまで質問しましょう。ただ、医師にもそれぞれ専門や得手不得手があります。臨床遺伝専門の医師などに相談したり、看護婦・心理士・ソーシャルワーカー・保健婦などでダウン症についてよくわかっている人との協力関係をつくり、信頼関係のなかで気軽に話し合う機会をつくっていくことが必要です。

 ご参考までに、爵岡県立こども病院で行っている説明を紹介しましょう。


1)ダウン症候群の染色体について

 ダウン症ではふつう21番目の(一番小さい)染色体が1個多く、全部で3個になっています(21トリソミー)。染色体は遺伝子のDNAを含んでいて、ふつうは−対(2個)の染色体で順調に働いているのが、遇剰の1個がじゃまをしたことで体の中に働き方のうまくいかないところができたのです。

 過剰染色体が遺伝によってできることはめったにありません。また、ダウン症の数%に『転座型』がみられます。転座染色体は親から遺伝したものが一部にありますが、その遺伝は誰の責任でもありません。染色体異常は誰にでもおこる可能性がありますし、その原因に責任をもつという大それたことは人間ごときにできることではないのです。なかには『モザイク型』といって21トリソミーをもつ細胞と正常細胞が体の中で人り交じっているタイプもあります。このときには発達の遅れが軽くなることもあります。だからといって個性を忘れて学業をあおるようなことになると、かえって能力が発揮できなくなってしまうので注意が必要です。

 染色体異常があると、多くは流産して出産に行き着かないのです。『生まれてきた』ということは、淘汰を乗り越えたということなのです。それは特別生命力があり、両親からよいものをたくさん受けていて、お母さんのおなかの中の条件もよかったことをあらわしているのです。染色体に異常のある子は誰にも生まれる可能性があるのですから、その家族だけの負担にならないよう社会の皆で支えていくこと、そして、自分のところに生まれても困らないように支え合うのが本当の福祉なのです。


2)発達について

 ダウン症では過剰の21番染色体以外は、まったく正常なのがふつうです。何もかも異常な子ではありません。発達は緩やかで合併症はありますが、ほとんどの合併症は治療ができます。特別な存在と決めつけたら、余計な障害もつくられてしまいます。『普通の社会で普通に育てるほうがよい』という意味は、そういうことなのです。ただし、この子たちの『ゆっくり育つ』特性を忘れてはなりません。とくに不得意なことには時間がかかるものです。焦ってよいことは一つもありません。


3)『健常な面』が伸びる育児環境を

 子どもは誰も発達する力を秘めています。大人は子どもを無理に伸ばすことはできませんが、伸びやすいような育児環境づくりをする努めがあります。その環境とは特別なものでなく、子どもが生きていく基礎となる感覚や感性を身につけられる、普通の自然な環境なのです。その子のペースに合って、人と人が豊かに関わっていける環境が最良なのです。



              次へ