わが子がダウン症と診断された親ごさんへ  



7)まがいものの治療・療法や療育にご用心

 この治療で発達が伸びる、これを食べれば体力がつく、○○法でIQが上がる、などという宣伝のなかには眉睡ものの治療・療育も少なくありません。本当に子どものためなのか判断が必要です。それを見極めるコツを考えてみましょう。

たとえば
(1)常識的で、飛躍していないか
(2)子どもの発達段階をふまえたものか
(3)親が自分自身にやってみても変でないか
(4)効果が具体的に示されているかどうか
(5)普通の日常生活を圧迫しないかどうか

など。親はとにかく発達を伸ばそう、普通に近づけようと焦りがちですが、それが怪しげな商法のワナをまねきやすくなります。子どもたちが発達するのに必要な時間はそれぞれ違うのです。ダウン症の子ではふつうより発達に必要な時間が長いのです。それをしっかりわかってあげないとならないのです。

 親ごさんこそ、わが子の本当の専門家なのですから人に頼りすぎず、もっと自信をもってください。それには子どものありのままの姿を暖かい目で見守って、過小評価も過大評価もせす、本人にいちばん合った関わりを知ることです。

そのためには一人で悩まないで、保健所での集い・おもちゃ図書館・母子通園など、親ごさんを支え子どもが遊びに親しめる場に参加して、同じ立場の人たちと話すほうがよいのです。そこで人間どうしの信頼関係もつくられ、親子でコミュニケーションの力を高めてもいけるでしょうし、支えられ、悩んでいるのは自分一人ではないということがわかることで、地域社会に入るのが心配な方も勇気が出てくるでしょう。親子の集いでは、わが子を他の子とつい比べてしまうかもしれませんが、より早くより多く出来たかどうかを単純に比較するのでなく、わが子を理解するために個性を見比べるのであれば、悪いことではありません。


8)「健常」のきょうだいを忘れずに

 きょうだいは健常児だから大丈夫と放っていませんか。また、入院が多いと親ごさんのゆとりもなくなりがちです。しかしきょうだいも親から目を向けてほしい、小さなことでも認めてほしいという気持に変わりはありません。きょうだいは障害があっても特別ではなく平等だと思っていますし、それがとても大切なことなのです。たいへんでしょうが、健常なきょうだいも大事にして、少しの時間でも話を聞いたり、−緒に買い物に行ったりしてください。そうすれば病気の子にとっても自分が家庭の一員であり、世界の中心ではないことがわかり、わがままにもならないですみます。かえって親ごさんは楽になれるでしょうし、きょうだいがいてよかったと改めて感じられることでしょう。


9)福祉など社会の資源を再効に活用して

 病気や障害をもつことは誰にでもありえます。そのときに困らないように福祉はあるのです。親の会などの相互支援の活動もいろいろあります。子どもが親だけで育てられるはずはありません。いろいろな人とふれ合うからこそ社会のなかで生活できるようになるのです。これは地域によって違いがありますから、病院・保健所・役所・福祉センターなどで聞いてみたり、親の会の人に教えてもらいましょう。


10)親の会への参加について

 ダウン症の子の親の会には、全国規模の日本ダウン症協会(JDS 03-3369-3462) と、各地域の会とがあります。インターネットを使った日本ダウン症ネットワーク (JDSN http://infofarm.cc.affrc.go.jp/~momotani/dowj1.html)もあります。

 では、親の会に期待するものは何でしょうか。診断した医師は医学や医療からみたダウン症候群は知っていても、親ごさんの本当の気持を知ることはできませんし、ダウン症の子どもや成人の具体的な生活のようすも知らないでしょう。親の会でまず得られるものは、他の人にはわからない悩みを話すことによる同じ立場の人たちとの共感でしょう。それによって辛い気持からの立ち直りも早くなります。そして互いに助け合い、子育てや生活のヒントを学び合うことができます。人に助けられることの大切さを知って心も柔らかくなりますし、逆に自分よりたいへんな思いをしている人(たとえそれが健常といわれる子でも)への支援に広がればボランティア活動にもつながっていきます。

 全国的な会と各地の親の会とは、「子どもたちがよりよく生きられるようにする」という究極の日標では一致していますが、地域の範囲の大きさや地域の特性で役割に少し違いがあります。

 子どもを本当に愛し受けとめる「受容」の時期は早くても2年ぐらいはかかるものですが、時間をかければ誰でも受容に行きつくものです。受容できないと一人で悩むことなく、いろいろな人と話をして、気持を聞いてみるとよいでしょう。

 心理相談員をしているあるお母さんが「悩みを話せるようになったら心配ないけれど、『できる』『できない』にこだわっているうちは心配」と言っておられました。ふつうでも子育てに悩みはつきものです。自分の心に蓋をして隠してしまっては心身ともによくありません。思い切って心を打ち明けられる友達を作ることです。これは親の会の大きな目的でもあります。

 どんな障害があっても、その子の人格は尊重されるべきです。それには、人と人との共感と信頼関係が欠かせません。それが親子でもお互いの関係の基本的姿勢なのです。いつもその子育ての基本に思いをいたらせるならば、ダウン症の子を育てることも難しいことではないのです。

 このメッセージを作るにあたって、多くのダウン症親の会やダウン症の子の医療・療育の専門家の方々に読んでいただき、共感と助言をいただきました。謝辞を心から申し述べます。



静岡県立こども病院遺伝染色体科 長谷川知子 特集資料/わが子がダウン症と診断された親ごさんへ ペリネイタルケア 1998 Vol.17 No.3 53-57 Japanese Journal of Perinatal Care メディカ出版および長谷川知子先生の許可を得て転載しています。



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