長谷川先生子育てQ&A  
会員からの質問に医師の立場から答えていただきました    


Q1.何歳までにどの検査(耳・心臓・頚椎etc.)をしたらよいでしょうか?
Q2.予防注射は受けても大丈夫でしょうか?
Q3.1歳児、今やっておいた方が良いこと。(運動面、心理面で)
Q4.何かしていて次の行動に移すとき、場面や気持の切り替え方、仕向け方は ?
Q5.親の支持が聞こえないのか、伝わっていないのか、次の行動ができない。
Q6.やる気のある時と無いときの差があるのはダウン症特有なのか?
Q7.早期療育は必要ですか?
Q8.成人期の後退減少の対処法として、今から気をつけることは?
Q9.早期退行・老化などに対する運動対策や栄養対策は?予防策はありますか ?
Q10.長谷川先生の診療を受けたいときは、どのような手続きが必要ですか?
Q11.医師の立場から、行政提出の意見書を書いていただくことは可能ですか?



Q.何歳までにどの検査(耳・心臓・頚椎etc.)をした らよいでしょうか?

A.具体的な指針はまだJDSから出ていないので作る必要がある と思います。ただ、そう簡単なものではないですし、それぞれの方の状況によっ て差異があるので、かなりの検討が必要で、そのためまだできていないと思われ ます。

お訊ねの各検査についてですが

[耳]乳児期の検査はまだ不確実なので、1歳過ぎてからの方が確かでし ょう。呼んでも反応しないとか、音のする方を向かないというのは難聴の証明に なりません。発達が遅れているお子さんは、音が聞こえてもそれに大きく反応し たり、音の方を見たりすることも遅くなります。音が聞こえていないからと早め に補聴器を付けて、後で問題ないとわかり外すこともよくありました。聴力は五 感のうち視覚に続いて重要な感覚ですが、聴覚以外の感覚で捕らえたほうが生活 にメリットになりますから、乳児期には心配しないことです。それに聴覚にばか り気をとらわれると、他の重要な感覚を育てることを忘れてしまいがちなので注 意が必要です。難聴の原因には中耳炎もあります。子どもは一般に中耳炎になり やすいのですが、ダウン症のお子さんは上あごが低形成ということもあり、中耳 炎になることが多いのです。耳鼻科で3ヵ月から半年に1回は検診を受け、聞こ えがよくなくなったなど普段と違ったらすぐ耳鼻科で調べてもらう必要がありま す。

[心臓]ダウン症のお子さんは、半数くらいに先天性心疾患がありますか ら、乳幼児期に小児専門で(積極的に治療してくれる)循環器科で検診を受ける必 要があります。それ以降は、定期健診を受けていけばほとんど大丈夫です。医師 がもう大丈夫と言っても、成人になっても、時々は検診を続けたほうが安心です 。

[頚椎]第一頚椎がずれるかどうかは、まず、2歳半くらいにレントゲン 撮影を受けるといいでしょう。その前に歩き始めたら、でんぐり返しをする前に 検査をする必要があります。最初の検査で問題がなければ、頻繁に検査する必要 はありません。動きが激しくなってきたら一度やり、後は就学前にする程度で大 丈夫でしょう。もし頚椎亜脱臼の可能性があったら、でんぐり返しはさせないよ うにして、年1回くらい検診を続けます。多くの場合、そのうちに問題なくなっ てきますが、頚椎が確実にずれている場合は小児の整形外科医の診察を受けてく ださい。適切な時期に手術が必要になる人もいます。

[甲状腺]生後すぐに甲状腺の検査がされていますので、その時甲状腺機 能低下が疑われた方は薬を使っているはずです。その方々は内分泌専門医師が経 過を見ていますが、問題なかった方は時々(就学前、10歳を過ぎたら毎年)定期 健診を受ける必要があります。

[肥満]ダウン症の方が肥満になりやすいのは、体の大きさ(特に身長と筋 肉の発達)からみて不適切なほどカロリーの多い量を食べること、それに運動不 足です。さらに、肥満になりやすい遺伝子が家族より受け継ぐと太りやすくなり ます。

[眼]ダウン症のお子さんは、比較的、視力に問題があること(乱視、近視 、遠視)が多いですし、治療が必要でない程度の白内障をもっていることも多く 、斜視があることも少なくありません。眼科の検診は必ず受けましょう。視力は 3歳くらいにならないとわかりませんが、その他のチェックは乳児でできるので 、早期から小児眼科医に見てもらうことが必要です。斜視は家でおかしいとわか るでしょう。斜視の眼のほうが見ることをしておらず、アイパッチなどで矯正で きない場合は手術が必要です。時期は3歳頃が適切でしょうが(6歳以降になる と弱視になることがありますから)、両眼で見ていても眼位がおかしければ外見 かけからでも、手術をしたほうがよさそうです。


Q.予防注射は受けても大丈夫でしょうか?

A.ダウン症だからといって予防接種を受けて いけないという理由はありません。感染症は人を選びません。ダウン症だから重 くなるとも限りませんが、どの子も重くなったり、副作用が生命や生活を脅かす おそれがあります。また、ダウン症だから量を減らすほうがいいという根拠もあ りません。効かなかったり、回数を増やすのは、お子さんのためになりません。 予防接種を受けてよいかどうか、どうして気にされているのですか?それを危惧 する人から聞かれたのでしょうか?


Q.1歳児、今やっておいた方が良いこと。(運動面、心 理面で)

A.どの年齢であってもしていただきたいこと があります。一つは、普通ならその年齢で何をするかを知って、それをすること です(できないことは適切に援助すればいいのです)。もう一つは、それまでに しておくべきことをしていなければ、それを改めてすることです。


Q.何かしていて次の行動に移すとき、場面や気持の切 り替え方、仕向け方はどうしたら良いでしょうか?

A.何の行動でもどうかかわるか知っていただ きたいのは、まず、どうしてその行動をするのか(しないのか)じっくり観て、お 子さんの気持ちを知ろうとすることです。それがわからないまま対応すると、親 子の気持ちに行き違いができてしまいます。また、同じ行動でも、その時の気持 ちは違うかもしれません。お子さんの気持ちがわかったら、それぞれに応じて、 今何をしなくてはいけないかを、じっくりゆっくり時間をかけて、やさしく教え ていきます。できなくてもいつかはできるという信念をもってやってください。 これはどの子にも同じことですが、ダウン症のお子さんは理解できるまで時間が かかるかもしれません。でも絶対できます。ただし、幼い時はいつも同じやり方 でないと混乱しますし、やらなくて(やっていても)いいんだなと思ってしまい ますから、どうしても動かなければ、体ごと運んでしまうなど、最終的にはけじ めをきちんとつける必要があります。


Q.親の支持が聞こえないのか、伝わっていないのか、 次の行動ができない。

A.前のご質問と似たことですが、親の指示は どうして入らないのか、お子さんをじっくり観て、指示する意味をもう一度考え る必要があります。親の言うことを聞かないのはなぜでしょうか。親子の気持ち が通じている場合でも、最後は思い通りになるという信念を、お子さんがもって しまっていないでしょうか。親が負けたら、子どもはしめたと思うだけです。大 人が子どもに負けるのは恥ずかしいことです。また、今やっていることが将来ど ういう方向に行くかも考える必要があります。これはダウン症かどうかも関係な いことです。


Q.やる気のある時と無いときの差があるのはダウン症 特有なのか?

A.自分自身の幼いころを思い出すと、やる気 のある時、ない時はっきりありました。他のお子さんを大勢おもちの方はわかる と思いますが、どの子にもあります。やる気がなくても頑張ってやる子も、一般 にも、ダウン症にもいます。でも、それを表現する(自分に素直な)子のほうが安 心です。親の気持ちに沿うように、やる気がなくても頑張ってやる子は、いずれ 燃え尽きてしまうおそれがあります。しかし、幼児とは、好き嫌いで判断し、や るべき時を知らないのですから、それは時間をかけて教えていく必要があります 。教え方は場面によって違うでしょうし、お子さんによっても違うでしょう。わ が子の特性を、いつもじっくり観て知ることが対応を知る第一歩です。これは前 の質問と同じです。


Q.早期療育は必要ですか?

A.歩ける子に歩く訓練は不要です。赤ちゃん 体操等の全身運動が大変いいです。普通の部分を普通に子育てする、この部分が 一番難しいのです。放っておいて育つわけではありません。手をかけて、愛情、 信頼を育てることが大切です。


Q.成人期の後退減少の対処法として、今から気をつけ ることは?

A.先ほどから述べていることをやり続けてい ただければ大丈夫です。一番大事なことは、親も子も、自分がまず自分の主人公 になること、そこから他の人のことを考えていくことです。


Q.早期退行・老化などに対する運動対策や栄養対策は ?予防策はありますか。

A.基本的に、人間として当然のことをしてい なければ、老化に進んでいくのは早くなるでしょう。毎日の適切な栄養、充分な 水分補給、皮膚の紫外線防止、毎日の適切な運動、ストレスがあればその対策な どが老化の進行を抑えます。一般の人だって、以前の50代以降と全く違うでは ないですか。


Q.長谷川先生の診療を受けたいときは、どのような手 続きが必要ですか?

A.ありがとうございます。東京では一か所、 板橋の心身障害児総合医療療育センターで外来をしています。毎月第4水曜と木 曜です。(休日などにぶつかる時は1週ずらします)ご連絡は、03-3974- 2146
成人の方であれば、JDSの事務局で個別相談をやっています。(1回 3000円)


Q.医師の立場から、行政に提出する意見書(就学猶予 希望やヘルパー要請など)を書いていただくことは可能ですか?その場合、どの ような手続きが必要でしょうか。また、緊急を要する場合などに、対応していた だけるシステムは可能でしょうか?

A.それはどの医師でもやってくれます。私も もちろんしますので、外来にお越しください。ただし、それを書くためには、お 子さんについてよく知ることが必要なので、そのためだけに来られても充分なこ とはできませんので、経過を診させていただくことが必要となります。たとえ診 療が役に立たないと思われても、医師との普段からの関係がお子さんを守るので す。また、緊急の場合とはどういう時でしょうか。普段から医師と関係があれば 、どんな緊急でも対応は可能と思うのですが。そうでなければ、医師も人間です から、どんな名医も緊急時に適切な対応をするのは難しいかもしれません。普段 からかかりつけの医師をつくっておきましょう。



2008.2.1 ふたばの会 長谷川知子先生講演会にて